主に金融領域で伝統的に使われてきた財務情報や経済統計のようなデータ(Traditional Data)に対して、これまで利活用の進んでなかったデータのことをオルタナティブデータ(Alternative Data)と呼びます。
主なオルタナティブデータの例
従来経済分析に使われてきたデータには速報性や情報の網羅性に課題がありました。例えば経済統計で最も幅広く活用されているGDPは四半期に1回の発表で、各四半期末から1か月半のタイムラグをもって公表されます。また、例えばGDPの基礎統計となっている一部の消費統計では、情報収集過程でのサンプルバイアスの存在や、ECのような新興業態を十分に取り込めていない現状から、情報の網羅性に疑義があると指摘されています。
こうした中で、クオンツファンド(定量分析に基づいた運用を行う投資信託)を中心にオルタナティブデータを活用する動きが強まっています。
図1資産運用業界におけるオルタナティブ
データの普及過程
出所:AlternativeData.org
市場が先行して成熟している米国では、クオンツファンドのみならず、株式ロングショートやプライベートエクイティ、ロングオンリーなど、資産運用業界全体に幅広く浸透しています。更に、運用業界外でも、中央銀行やシンクタンク、メーカー・小売など幅広い主体が政策、経営の判断材料としてオルタナティブデータを活用しています(※2)。
株式分析手法は、活用可能な情報やデータの広がりとともに進化してきました。
例えば1990年代以前は、損益計算書と貸借対照表の二種類の財務諸表と株価や市況関連情報などの金融市場データのみを活用することが、個別株のアナリストの間では当たり前とされてきました。
しかし、2000年3月期以降、連結ベースのキャッシュフロー計算書の作成・公表義務が公開企業に課せられたことで、いわゆる「財務分析」にキャッシュフロー計算書の活用が一般化しました。
そして、近年の新しい潮流がオルタナティブデータを活用した分析です。米国のクオンツファンドは、一部のオルタナティブデータをすでに「Alternative」ではなく、「Mainstream」として活用しています。例えば小売業界の年末商戦の結果を占うデータとして、クレジットカードデータが幅広く活用されています(※3)。
日本ではまだ十分にオルタナティブデータの活用が進んでいませんが、一部の資産運用会社がオルタナティブデータ専門の部署を立ち上げる等、徐々に広がりをみせています(※4)。
以下のページでは、オルタナティブデータの種類や特性についてさらに詳しく解説しています。
このように、金融領域を中心に経済分析のあり方を変えているオルタナティブデータの潮流は、データ提供元となる「データホルダー」(ビッグデータを保有する事業者)にも、ビジネスチャンスをもたらします。
ナウキャストは創業以来データホルダーがオルタナティブデータビジネスを推進するためのサポートを行ってきました。以下のページでは、当社が数々のデータホルダーとオルタナティブデータビジネスを立ち上げて来た経験を基に、同ビジネスに取り組む意味を解説しています。
ナウキャストは、POSデータやクレジットカードデータなどの消費者購買データを中心に、オルタナティブデータサービスを幅広く展開し、オルタナティブデータ産業の確立を目指しています。以下のページでは、オルタナティブデータの活用事例についてご紹介いたします。
以下では、ナウキャストがどのようなオルタナティブデータサービスを投資家やエコノミストに提供しているのか、その一端をご紹介します。
ナウキャストは2015年2月に東京大学経済学部の渡辺努研究室が推進する「東大日次物価指数プロジェクト」を前身として設立されました。現在、東大日次物価指数は日経CPINowへと名前を変え、内閣府や日本銀行のような公的機関、証券会社やシンクタンク等のお客様に幅広く活用されています。
本サービスは大きなタイムラグ(月次更新、1ヶ月のタイムラグ)が存在する総務省発表の全国消費者物価指数に対して、速報性(日次更新、2日のタイムラグ)の高い補完的な物価統計を配信するサービスです。消費税率引き上げによる駆け込み需要増、及び反動減や、コロナショックにおける食品、日用品の買い占め行動などを迅速に捉える情報として様々な機関に参照されています。
ナウキャストは、クレジットカードデータを活用した分析についても積極的に取り組んでいます。クレジットカードデータを用いると、「どこで(Where)、どういった人が(Who)購入したのか」という情報がわかります。
さらに、POSデータのように、スーパー・ドラッグストアなどの一部の小売業に限定されないことも特徴点です。ECなどのオンラインでの消費、映画館や遊園地などでのサービス消費も含めた幅広い消費活動を捉えることが可能であるため、消費統計を開発するには最適なオルタナティブデータと言えます
こうした観点から、ナウキャストは株式会社ジェーシービーと提携し、クレジットカードデータを活用した新しい消費統計「JCB消費NOW」を開発、提供しています 。
オルタナティブデータは、マクロ経済分析のみならず、個別企業の分析にも活用可能です。新型コロナショックの影響により、決算短信や有価証券報告書の開示が遅延する事態も発生しました(※4)。こうした中で、例えばPOSデータをはじめとする消費者購買データを活用し、個別企業の分析をすることは市場の不確実性の削減に繋がります
ナウキャストでは、日経POSデータやTrueData、Tポイントなどの消費者購買データを活用し、食品・日用品・小売などのBtoCビジネスを営む個別企業の分析を行っています。
※1… 例えば、FRBのエコノミストは、下記の論文でクレジットカードデータをもとにした消費統計開発の有効性を指摘しています。
Aladangady, A., S. Aron-Dine, W. Dunn, L. Feiveson, P. Lengermannm, and C. Sahm, 2019. “From Transactions Data to Economic Statistics: Constructing Real-time, High-frequency, Geographic Measures of Consumer Spending.” NBER Working Paper 26253, National Bureau of Economic Research.
※2… CNBC” Record online sales give US holiday shopping season a boost” (2019/12/26)
https://www.cnbc.com/2019/12/25/reuters-america-corrected-record-online-sales-give-u-s-holiday-shopping-season-a-boost-report.html
※3… 日本経済新聞朝刊「AI運用の開発加速」(2017/10/13)
https://www.nikkei.com/article/
DGKKZO22182590S7A011C1EE9000/
※4… 金融庁「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を踏まえた有価証券報告書等の提出期限の延長について」(2020年4月)により、有価証券報告書の提出期限が「企業側が個別の申請を行わなくとも、一律に本年9月末まで延長」されることが発表されました。