2026.06.22
レポート

【子どもの生活実態調査オープンデータレポート】自己肯定感の高低グループ比較から見る保護者の関わりと生活

株式会社ナウキャスト Economic Research Unit
市川 祐衣

はじめに

 ナウキャストは多様なオルタナティブデータの分析を通じて、日本経済の動向や市場の可視化に取り組んでまいりました。これまで培ってきたデータ分析の力を経済領域だけに留めず、さらに幅広い領域で生かすことでよりよい社会の発展につなげていきたいと考え、公共領域における社会課題解決に向けた分析アプローチを強化しています。具体的には、官公庁や自治体が保有するデータの利活用に取り組んでおり、その一環として今回、東京都が公開しているオープンデータに着目し、本レポートを作成いたしました。
 官公庁や自治体が公開するオープンデータには、政策立案や社会課題の解決に向けた活用の余地がまだ多く残されていると考えています。とりわけ、子どもたちや保護者を取り巻く環境についてデータに基づいて実態を把握することは、エビデンスに基づく政策立案(EBPM)の推進においても重要な意味を持ちます。本レポートが、子どもたちの健やかな成長を支える施策の検討に少しでもお役に立てれば幸いです。

レポート概要

  • 東京都のオープンデータである*1、令和5年度に狛江市で実施した「子どもの生活実態調査」のうち、小学5年生の児童と保護者の匿名化された個票データを集計・分析しました。
  • 子どもの自己肯定感を問う設問に肯定的な回答をしたグループ(以下、高グループ、n=244)と否定的な回答をしたグループ(以下、低グループ、n=71)間で、保護者の回答の差が有意な設問を調査しました。
  • その結果、統計的に有意な差が見られた保護者側の設問・回答は「親子の対話頻度」「子育て中の経験:うつ状態あり」「子ども家庭支援センター利用の有無」の3点でした。
  • データ数に限りがある上に回答に偏りがあること等に注意が必要ですが、子どもの自己肯定感は親子の日常のコミュニケーションや親の困難経験と関係がある可能性が示唆されました。


分析概要

 本分析の元データである、狛江市子どもの生活実態調査は、子どもの生活状況や子どもとの関わり、家庭の状況などを把握し、子ども・若者の支援に役立てるとともに、令和7年度からの「第3期こまえ子ども・若者応援プラン*2」での取組等を検討するための基礎資料として実施されたものです。
 各設問の単純集計の結果は公表されていますが*3、今回、弊社は子どもの回答と保護者の回答を掛け合わせて分析することで、子どもの健やかな成長に必要な要素の手がかりがつかめるのではと考えました。その中でも、子どもの自己肯定感に関する設問に着目し、自己肯定感が高い児童と低い児童で保護者の生活態様に違いがあるかを明らかにすることを目的に分析を実施しました。



統計的に有意な差が見られた保護者の回答

 子どもの自己肯定感の高低グループ間で、統計的に有意な差(p<.05)が認められた保護者の回答は、以下の3つでした。

 以降、それぞれについて結果を確認し、その意味を考察します。

1. 保護者と児童の関わり
問16 D お子さんと学校生活、ニュース、テレビ番組等の話をする

 『お子さんと学校生活、ニュース、テレビ番組等の話をする』という設問に対し、頻度が高いほど高いスコアを割付けて子どもの自己肯定感の高低グループ間の回答を比較した結果、自己肯定感が高レベルのグループと低グループの保護者の回答に有意差がみられました。頻度が少ない回答が圧倒的少数である点は注意すべきですが、これは「親子の対話頻度」が高いほど子どもの自己肯定感の高い傾向があることを示唆しています。
 保護者と児童の関わりに関する設問では、他にも外出をする、遊園地へ行くなどといった設問もありましたが、それらではなく、日常の中での子どもとの関わりに関する設問が有意であったことから、子どもの自己肯定感には特別な体験より、まずは日常のコミュニケーションが大切である可能性が指摘できます。また、今回の分析では同時に父と母それぞれの年収を5区分(〜100万 / 100〜300万 / 300〜500万 / 500〜700万 / 700万以上)に分け、連続値として扱って検定を行いましたが、そちらも特別な体験と同様、有意な差は見られませんでした。

2. 子育て中に困難を感じた経験の有無
問26 あなたはお子さんをもってから、以下のような経験をしたことがありますか。
[選択肢]出産や育児でうつ病(状態)になった時期がある

 『あなたはお子さんをもってから、以下のような経験をしたことがありますか。』という設問に対し、「出産や育児でうつ病(状態)になった時期がある」と回答した保護者の割合が自己肯定感低グループにおいて有意に高いことが分かりました。このことから、子育て中に保護者が困難に遭遇した経験が子どもの自己肯定感に影響する可能性が示唆されます。ただし、同じ設問の他の選択肢(DV経験の有無等)は回答数が少なく今回の分析では正確に判断できない点には留意が必要です。困難を感じた経験全般が子どもの自己肯定感に関係するのか、それとも保護者の精神状態との関係が強いのか等の詳細で正確な分析については今後サンプル数を増やして検証する必要があります。
 またうつ病(状態)の発症要因は多岐にわたるため、その点も慎重に解釈する必要がありますが、当事者への適切なケアはもとより、うつ病やうつ状態に陥る前の早めのサポートが子どもの自己肯定感を高めることに有効な可能性が指摘できます。

3. 相談機関利用の有無
問29 B 子ども家庭支援センター

 *各選択肢の相談したことがない理由は区別せず、一つに統合した
 子ども家庭支援センターへの相談経験を問う設問に対し、相談したことがある/ないの二値に変換した上で、自己肯定感高グループと低グループで相談したことがある割合を比較しました。その結果、自己肯定感低グループの保護者ほど子ども家庭支援センターへ相談した経験がある傾向が示されました。
 これは、保護者が困難を感じることが子どもの自己肯定感に影響するという「2. 子育て中に困難を感じた経験の有無」と類似の構造を示唆していると考えられます。なお、この設問では他にも学校や保育所の先生・市役所の窓口などでの相談経験を聞いていますが、それらは今回は有意差が確認できませんでした。学校や市役所は困難を抱えていない保護者も日常的に関わりがある機関であることが影響していると考えられます。
 なお、前述のうつを経験した保護者のうち、子ども家庭支援センターに相談経験がある割合は約6割と、うつ状態を経験していない保護者と比較して約2倍の数値となりました。ケアを必要とする保護者に対してセンターの支援が一定程度届いていることを示しており、好ましい傾向と言えます。一方、今回の調査だけでは詳細は不明ですが、うつ状態を経験している保護者の4割程度は相談経験がないことも明らかです。支援の必要性が高い層において相談に結びついていない層が一定数存在する点は、今後の課題かもしれません。

まとめ

 本分析結果から、小学5年生の自己肯定感は、「親子の対話頻度」「子育て中の経験:うつ状態あり」「子ども家庭支援センター利用の有無」といった設問と有意に関連していました。
 保護者と児童の関わりについては、特別な体験や生活水準よりも、親子の日常のコミュニケーションが重要である可能性が示唆されました。保護者支援という視点では、保護者へのサポートが間接的に子どもの自己肯定感に影響する可能性が示されました。助けを必要とする保護者が子ども家庭支援センターの存在が十分に認知されているか、また相談しやすい環境が整っているか等、支援体制を改めて点検することは有効かもしれません。
 なお、今回の結果の解釈には以下の点も考慮する必要があります。まず、本分析は一時点のデータのみで分析を行っているため、因果関係を明らかにしたものではありません。「保護者の行動が自己肯定感を高める」のではなく、「自己肯定感の高い子どもを持つ家庭で特定の行動が多く見られる」という関連性を示すにとどまります。また、低自己肯定感グループのn数が少ない(n=71)など、データ数に限りがある上に回答に偏りが大きいこと、データが狛江市のみであること、などの理由から結果の一般化には慎重な検討が必要です。
 今回は入手できたデータのみでの分析になりましたが、より多くの個票や、目的に対して適切に設計されたデータを分析できれば、より多くの示唆と、確からしい結果が手に入る可能性があります。今後も弊社は様々なデータの利活用・データ分析を通して、より良い社会の実現に寄与すべく取り組んで参ります。

参考資料

*1 東京都オープンデータカタログ 子どもの生活実態調査(元データ):
https://catalog.data.metro.tokyo.lg.jp/dataset/t132195d3100000011
*2 第3期 こまえ子ども・若者応援プラン:https://www.city.komae.tokyo.jp/index.cfm/46,70483,358,2149,html
*3 狛江市子どもの生活実態調査について:https://www.city.komae.tokyo.jp/index.cfm/46,133681,362,3161,html
*4 細かい点として、以下を実施している。

  • 問1,2,3,4,5,27,30は、保護者の生活とあまり関係がないなど示唆が得にくい、回答に強い偏りがある等の理由で除外した。
  • 同学年に兄弟がいるなど、児童と保護者の紐付きが1対1でない場合は、子どもと保護者の突合コード順で最初の児童と保護者のペアのみを採用した。
  • 便宜的に問11の子どもの学歴期待や問23の親の最終学歴は順序尺度として扱った。
  • 各設問の選択肢内「その他」「わからない」などは除外した。
  • 設問に回答していない欠損値は除外した。

*5 Mann-Whitney U検定は、正規分布に従わない2つの独立したグループの分布の差を比較するノンパラメトリック検定である。なお、同じ2群に対して複数の変数で検定を行っている関係で、多重検定の問題が発生し、本来は有意でないが有意差が出る設問が発生する可能性がある。今回は、シンプルな手法で広く関係しうる変数を拾う目的で仮説検定を選択した。
*6 問17のように「ある/ない」ではなく、ない理由を合わせて聞いている設問については、「ある/ない」に集約して集計を行った。問22などの複数の選択肢から該当するかしないかを単独・複数回答で選ぶ設問については、各回答を選んだか選ばなかったか、の二値に変換している。
*7 Fisherの正確検定は、クロス集計表の行要素と列要素が独立であるかを検定するもので、代表的なクロス集計表の検定である独立性検定よりも不均衡データに強いと言われる。なお、同じ2群に対して複数の変数で検定を行っている関係で、多重検定の問題が発生し、本来は有意でないが有意差が出る設問が発生する可能性がある。今回は、シンプルな手法で広く関係しうる変数を拾う目的で仮説検定を選択した。

以上


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