2025.05.19
レポート

備蓄米放出による米価格と数量への影響 ~地域ごとの分析~

備蓄米放出による米価格と数量への影響 ~地域ごとの分析~

株式会社ナウキャスト Economic Research Unit
河村 絢也、余野 京登

【概要】

  • 本レポートでは、日経POSデータを用いて各地域の米の価格と数量の推移を分析し、備蓄米放出の効果に地域差があるかどうかについて明らかにした。
  • 分析では、日次データをもとに週次の平均販売価格、週次価格上昇率、週次数量増加率を計算した。いずれの数値についても、前年同日の指数とマッチしたデータに基づいて計算しているため、前年には存在せず今年から新しく出荷された備蓄米のデータは含まれていない。
  • 2024年3月18日の備蓄米引き渡しのタイミング以降、米の価格上昇は落ち着き、フラットに推移している。
  • 2025年4月以降、北陸、関西、中国等のエリアで週次平均価格がやや下がり始めているが下落幅は小さい。
  • 米の数量については、2025年4月以降、北陸、南関東、甲信越のエリアで数量増加率が増加し始めている。一方、北海道・東北と九州・沖縄エリアでは数量増加率が低調である。したがって、一部のエリアで米流通の目詰まりが少しずつ解消している可能性がある。
  • いずれの地域においても、備蓄米の放出は価格の上昇を抑制する一方で、価格を十分に下落させる効果はまだ見られない。今後、備蓄米がさらに流通していくことで価格が下落していく可能性も考えられる。


【詳細】

●本分析の背景

・備蓄米放出の状況について
 2024年夏頃から、需要増や流通構造の変化などが重なり、「令和の米騒動」と呼ばれる米の品薄・価格急騰が続いている。これを受けて農林水産省は2025年2月14日、政府備蓄米21万トンの市場放出を決定した。備蓄米の放出は流通の滞りを解消し、米価を安定させることが期待されるが、実際にどれほど価格を抑えられるかは不透明である。また、備蓄米を保管する倉庫の数や流通経路は地域ごとに異なり、放出効果にも地域差が生じる可能性がある。

 2025年5月12日現在における、備蓄米放出の状況は図1の通りである。全国農業協同組合連合会(JA全農)をはじめとする出荷業者が備蓄米を落札し、出荷業者への引き渡しが行われ、そこから卸売業者を経てスーパー等の小売業者に渡ることで米が流通していく[1]

【図1】備蓄米放出の状況(農林水産省資料[3][4][5]より作成)

【図1】備蓄米放出の状況(農林水産省資料[3][4][5]より作成)

 
 備蓄米の流通スピードは、倉庫との距離や流通ルートの整備状況による地域差が生じており、江藤農林水産大臣も、東北・東日本では流通が比較的早い一方、九州や離島では遅れる可能性があるという点を指摘している[2]
 そこで本レポートでは、日経POSデータを用いて各地域の米の価格と数量の推移を分析し、備蓄米放出の効果に地域差があるかどうかについて明らかにする。

●分析方法

 本レポートでは、図2のとおりに算出された指数を用いて分析を行う。分析では、商品分類「うるち米」の日次データから週ごとの平均を算出し、週次データとする処理を行う。今回は、週次の平均販売価格、販売価格、販売個数を計算し、それぞれを週次平均価格(実数)、週次価格上昇率、週次数量増加率としている。なお、いずれの数値も、前年同日の指数とマッチしたデータに基づいて計算しているため、前年には存在せず今年から新しく出荷された備蓄米のデータは含まれていない。

【図2】指数の算出方法

【図2】指数の算出方法


米の価格・数量の推移について

・米価の変化
 図3は、地域別の米の週次平均価格の推移である。2024年8月以前は、いずれの地域も米の平均価格2000〜2500円付近に落ちついていたが、南海トラフ地震臨時情報の時点から米の価格が上昇し続けている。3月18日の備蓄米引き渡しのタイミング以降は米の価格上昇が落ち着き、フラットに推移していることがわかる。

【図3】地域別 米の週次平均価格(実数)の推移

【図3】地域別 米の週次平均価格(実数)の推移


 南海トラフ地震臨時情報直前の時点と比べた米価の上昇率は図4の通りである。米価の上昇率は地域ごとにまばらであり、南関東、中国、四国は他のエリアと比べて米の上昇率が相対的に高くなっている。

【図4】南海トラフ地震臨時情報直前(2024/8/3~8/9)から最新時点(2025/5/3~5/9)にかけての地域別の米価格上昇率

【図4】南海トラフ地震臨時情報直前(2024/8/3~8/9)から最新時点(2025/5/3~5/9)にかけての地域別の米価格上昇率


 第一回の備蓄米引き渡し直前の時点と比べた米価の上昇率は図5の通りである。比較的、価格が下落しているのが北陸、関西、中国エリアとなるが、下落率は2〜8%程度であり、昨年8月時点からの上昇率(60〜80%上昇)と比べると微小な下落幅である。

【図5】第一回の備蓄米引き渡し直前(2025/3/8~3/14)から最新時点(2025/5/3~5/9)にかけての地域別の米価格上昇率

【図5】第一回の備蓄米引き渡し直前(2025/3/8~3/14)から最新時点(2025/5/3~5/9)にかけての地域別の米価格上昇率


・米数量の変化(図6)
 第一回の備蓄米引き渡し以降に注目すると、2025年4月以降、北陸、南関東、甲信越のエリアで数量増加率が増加し始めている。流通が早いと予想されていたエリアでは、南関東で米の数量が増加しているものの、北海道・東北エリアではそれほど数量は増えていない。また、流通が遅れると予想されていた九州・沖縄エリアにおいても米数量の増加は見られない。数量増加率には去年販売されていない備蓄米は含まれていないことに留意する必要があるが、備蓄米以外の米についても一部のエリアで米流通の目詰まりが少しずつ解消している可能性があることがわかる。一方、これらのエリアで平均価格が下落しているのは北陸のみであることから、米価への影響は今のところ限定的であると考えられる。

【図6】地域別 米の週次数量増加率(前年比)の推移

【図6】地域別 米の週次数量増加率(前年比)の推移


●まとめ

 今回の分析結果を踏まえると、3月中旬以降から米の値上がりが抑えられており、価格の推移がフラットになっていることが分かる。また、備蓄米の流通が本格化する4月以降、北陸、関西、中国等のエリアで米価がやや下がり始めていることもわかった。一方で、これらのエリアにおける米価の下落幅はわずかである。農林水産省によると、備蓄米の第二回放出(〜4/13)までに落札された21万トンのうち、小売店と外食事業者に供給されたのは4,179トン(約2%)とわずかであった[6]。また、全体の9割の備蓄米を落札しているJA全農の出荷済み数量は、5月8日時点で落札数量の32%程度である[7]。したがって、米の価格が十分に下がらない理由として、備蓄米が小売業者にまで十分にいきわたっていないことが挙げられる。今後、備蓄米がさらに流通することで、米価が十分に値下がりするか注視していく必要がある。

【参考資料】
[1] 農林水産省「米をめぐる状況について」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/kikaku/kakaku_keisei/attach/pdf/imdex-85.pdf(閲覧日:2025年4月25日)
[2] 農林水産省「江藤農林水産大臣記者会見概要」(2024年4月18日) https://www.maff.go.jp/j/press-conf/250418.html(閲覧日:2025年4月25日)
[3] 農林水産省「政府備蓄米の買戻し条件付売渡しについて(令和7年2月) 」https://www.maff.go.jp/j/seisan/syoryu/attach/pdf/bichiku_hambai-17.pdf(閲覧日:2025年4月25日)
[4] 農林水産省「政府備蓄米の買戻し条件付売渡しについて(令和7年3月) 」 https://www.maff.go.jp/j/seisan/syoryu/attach/pdf/bichiku_hambai-38.pdf(閲覧日:2025年4月25日)
[5] 農林水産省「政府備蓄米の買戻し条件付売渡しについて(令和7年4月) 」 https://www.maff.go.jp/j/seisan/syoryu/attach/pdf/bichiku_hambai-47.pdf(閲覧日:2025年5月12日)
[6] 農林水産省「政府備蓄米の買戻し条件付売渡しの販売数量等の報告結果【隔週報告(令和7年3月31日から4月13日分)】」 https://www.maff.go.jp/j/seisan/syoryu/attach/pdf/bichiku_hambai-61.pdf(閲覧日:2025年5月12日)
[7] JA全農 「政府備蓄米の販売状況について」 https://www.zennoh.or.jp/press/release/2025/104706.html (閲覧日:2025年5月12日)


以 上


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