ナウキャスト Economic Research Unit
河村 絢也 余野 京登
※本レポートは2024年10月7日時点のデータをもとに執筆しています。
【概要】
【詳細】
〇本分析の目的
総務省が発表した7月の家計調査によると、二人以上の世帯における実質消費支出が前年同月比で0.1%と3カ月ぶりに増加した。物価高を背景とした実質消費の低迷が続く一方で、実質賃金がプラスに転じるなど、実質消費に対するプラスの材料も出てきている。
本分析では、JCB消費NOWの消費指数と家計調査のデータを比較することで、JCB消費NOWの補足精度を明らかにする。具体的には2017年1月から2024年7月までのJCB消費NOWの実質指数(IM+EM、前年同期比)と家計調査の二人以上の世帯(実質増減率)との時系列比較を行った。比較にあたっては、JCB消費NOWでは総合指数(全支出)とマクロ業種、家計調査では大分類または中分類により品目を分類し、同じ品目同士の実質消費データを比較することで品目別の比較検証を行った(表1)。なお、家計調査の食料については、大分類の食料に属する品目から外食を除いた品目について実質増減率の平均を算出したものを使用している。
【表1 セクターの比較対象】
比較の評価指標として、基本的な指標である相関係数と二乗平均平方根誤差(RMSE)に加え、「Mean Directional Accuracy(MDA)」という指標を使用する。相関係数には、2つの系列がほとんどの期間で同じ動きをしている場合でも、緊急事態宣言時などの短期間において大きく乖離した場合に、結果が大きく左右されるという問題がある。これに対し、MDAはこうした短期間での大きな乖離の影響を受けにくいという特長がある。MDAは、1に近づくほど2系列が同方向の動きをしている程度が強いことを示している。
〇 総合指数(全支出)
図1では、全支出における、JCB実質指数(IM+EM)と家計調査の前年同期比成長率の推移の比較を行った。JCB消費NOWは家計調査と長期的なトレンドで一致しており、ほぼ同様の動きをしている。相関係数は0.743、RMSEは0.004、MDAは0.636となり、強い相関関係を示唆している。
図1 JCB消費NOW実質指数(IM+EM、前年同期比)と家計調査の比較(全支出)
〇 飲料品小売セクター、外食セクター
図2では、飲料品小売セクターと外食セクターにおける、JCB実質指数(IM+EM)と家計調査の前年同期比成長率の推移の比較を行った。
飲料品小売セクター(図2・上)については、JCB消費NOWの方が家計調査よりも、高い水準で推移している。2023年1月から乖離幅が縮小している。乖離の原因として、JCB消費NOWの飲料品小売セクターではスーパーおよびコンビニエンスストアでの消費が含まれているが、家計調査には含まれないことが考えられる。相関係数は0.695、RMSEは0.064、MDAは0.580となり、正の相関関係にある。
また、外食セクター(図2・下)については、全ての期間についてJCB消費NOWと家計調査の系列が概ね一致している。相関係数は0.901、RMSEは0.098、MDAは0.875であり、ほとんど同様の動きをしていることが分かる。
図2 JCB消費NOW実質指数(IM+EM、前年同期比)と家計調査の比較
(上:飲料品小売セクター、下:外食セクター)
〇 織物・衣服・身の回り品小売セクター
図3では、織物・衣服・身の回り品小売セクターにおける、JCB実質指数(IM+EM)と家計調査の前年同期比成長率の推移の比較を行った。
織物・衣服・身の回り品小売セクター(図3)については、全ての期間についてJCB消費NOWと家計調査の系列が概ね一致している。相関係数は0.878、RMSEは0.087、MDAは0.872となり、ほとんど同様の動きをしていることが分かる。
図3 JCB消費NOW実質指数(IM+EM、前年同期比)と家計調査の比較
(織物・衣服・身の回り品小売セクター)
〇電気・ガス・熱供給・水道業セクター
図4では、電気・ガス・熱供給・水道業セクターにおける、JCB実質指数(IM+EM)と家計調査の前年同期比成長率の推移の比較を行った。
電気・ガス・熱供給・水道業セクター(図4)については、2021年8月からJCB消費NOWの方が家計調査よりも、高い水準で推移しているが、2023年1月から乖離幅が縮小している。相関係数は0.549、RMSEは0.066、MDAは0.666となり、概ね近い動きをしていることが分かる。
図4 JCB消費NOW実質指数(IM+EM、前年同期比)と家計調査の比較
(電気・ガス・熱供給・水道業)
〇医療セクター
図5では、医療セクターにおける、JCB実質指数(IM+EM)と家計調査の前年同期比成長率の推移の比較を行った。
医療セクター(図5)については、2022年12月まではJCB消費NOWは家計調査と同様に推移しているが、2023年1月から2023年12月の期間で乖離幅が拡大している。JCB相関係数は0.483、RMSEは0.06、MDAは0.704となり、全体では中程度の相関を示唆しており、2023年1月から2023年12月の乖離が評価指標に影響していると考えられる。
図5 JCB消費NOW実質指数(IM+EM、前年同期比)と家計調査の比較(医療セクター)
〇 通信セクター、交通セクター
図6では、通信セクター、交通セクターにおける、JCB実質指数(IM+EM)と家計調査の前年同期比成長率の推移の比較を行った。
通信(図6・上)については、JCB消費NOWは家計調査とほぼ同様の水準で推移しているが、系列のボラティリティは家計調査の方が大きい。2023年1月から乖離幅が縮小している。相関係数は0.910、RMSEは0.078、MDAは0.545となり、家計調査のボラティリティが高いため、MDAの値は小さくなるが、2系列の相関は非常に強い。
交通セクター(図6・下)については、全ての期間についてJCB消費NOWと家計調査の系列が概ね一致している。相関係数は0.941、RMSEは0.144、MDAは0.727であり、全ての評価指標からも2系列が概ね一致した動きをしていることが分かる。
図6 JCB消費NOW実質指数(IM+EM、前年同期比)と家計調査の比較
(上:通信セクター、下:交通セクター)
〇 旅行セクター、宿泊セクター
図7では、旅行セクター、宿泊セクターにおける、JCB実質指数(IM+EM)と家計調査の前年同期比成長率の推移の比較を行った。
旅行セクター(図7・上)については、2020年12月まではJCB消費NOWは家計調査とほぼ同様の水準で推移しているが、それ以降はJCB消費NOWが上方に推移しておりボラティリティが高い。JCB消費NOWの方がボラティリティが高い理由としては、JCB消費NOWは旅行斡旋業での消費のみをとらえているのに対して、教養娯楽サービスでは書籍代や娯楽用耐久財の消費など、旅行に関連しないものも一部含まれることが挙げられる。JCB消費NOWの方が旅行消費を的確にとらえているため、コロナ禍における消費の反応が大きくなっていると考えられる。相関係数は0.821、RMSEは0.601、 MDAは0.693となり、一部のタイミングで乖離が生じているが、2系列の相関は非常に強い事が分かる。
宿泊セクター(図7・下)については、2021年1月〜2021年6月を除く期間についてJCB消費NOWと家計調査の系列が概ね一致している。2021年1月〜2021年6月における上昇は、前年のコロナ渦における外出自粛の裏の影響によるものであり、上昇幅に違いが見られたが、傾向は一致している。相関係数は0.844、RMSEは1.6、MDAは0.704であり、一部のタイミングを除いて2系列が概ね一致した動きをしていることが分かる。
図7 JCB消費NOW実質指数(IM+EM、前年同期比)と家計調査の比較
(上:旅行セクター、下:宿泊セクター)
〇まとめ
JCB消費NOWではマクロセクター、家計調査では中分類により品目を分類し、同じ品目同士の実質消費データを比較することでJCB消費NOWと家計調査の比較検証を行った。比較を行った結果、全支出において2系列は強く相関していることが分かった。また、JCB消費NOWのセクター別では、外食セクター、被服・織物セクター、通信セクター、交通セクター、宿泊セクターでの実質消費指数が家計調査の系列と非常に強く相関していることが分かった。
【付録図1 評価指標の結果一覧】