株式会社ナウキャスト Economic Research Unit
※本レポートは2024年10月8日時点のデータをもとに執筆しています。
〇HRog賃金Nowの募集賃金指数と毎月勤労統計調査における一般労働者の所定内給与との比較
厚生労働省が公表した毎月勤労統計調査によると、今年7月の所定内給与(一般労働者)の前年比は+2.6%、8月速報では前年比+2.9%であった。一方、弊社が算出しているHRog賃金Nowの募集賃金指数(正社員、月収、月次)の7月の前年比は+1.9%、8月の前年比は+1.6%である。図1にこれまでの推移を示すが、直近の9月23日時点のHRog賃金Nowの募集賃金指数(同、週次)は+1.5%となっている。コロナ後から今年の5月まで、両者は同様の上昇傾向を辿ってきたが、最近になって明確な乖離が発生している。
【図1】募集賃金指数と毎月勤労統計所定内給与における名目指数の推移
〇職種ごとの寄与度分解
HRog賃金Nowの募集賃金指数の前年比はプラスで推移しているものの、プラス幅が鈍化している理由を職種ごとに寄与度分解して分析した。募集賃金指数の前年比は、各職種ごとの前年比にその職種の求人数をもとにしたウェイトを掛け合わせたものの総和で近似できる。付録に両者の推移を示しているので、参照してほしい1。寄与度分解の結果を図2に示す。これを見ると、直近の募集賃金指数の前年比への寄与が大きい職種は「01_営業/事務/企画/管理」と「08_医療/医薬/福祉」である。これらの職種は求人数が多いため、全体に占めるウェイトが大きい。
【図2】募集賃金指数の職種ごとの寄与度分解
一方で、5月時点と9月時点での寄与度の差を求めたのが表1である。これを見ると、寄与度を大きく減らしている職種は「04_運輸/物流/配送/警備/作業/調査」と「11_販売/接客/サービス」である。これらの2つの職種について、実数の推移を示したのが図3である。今年5月から募集賃金が低下していることがわかる。
これらの職種について、求人数指数の推移(正社員、月給、前年同期比)を示したのが図4である。「04_運輸/物流/配送/警備/作業/調査」では、23年末頃より全体を上回るプラスで推移していたが、募集賃金指数水準値の低下とともに、24年5月ころより求人数指数も反落し足もとではマイナスで推移している。当該職種では、「2024年問題」への対応を背景に求人需要が高まるなかで募集賃金も上昇し、全体の上昇をけん引してきたが、ここもと求人需要がひと頃に比べ落ち着いてくるなかで募集賃金にも落ち着きがみられていると考えられる。一方で、「11_販売/接客/サービス」について、求人数指数の推移(同)をみると、2023年末頃より全体を上回るプラスで推移していたのが、募集賃金指数が低下を始めた2023年5月頃より、求人数指数はさらに伸び率を大幅に拡大させていることがわかる。当該職種では、好調なインバウンド消費等を背景に、やや低めの募集賃金の求人需要が急拡大していると考えられる。
なお、求人数指数(正社員)をみると、月給ベースでみても、月給+年収ベースでみても前年同期比は23年末から大幅なプラスを維持しており、全体でみた求人需要は非常に旺盛であると評価できる。
【表1】職種ごとの寄与度分解の変化
【図3】職種別募集賃金指数の推移(正社員、月収、実数(万円))
【図4】職種別求人数指数の推移(正社員、月給、前年同期比)
〇結論
足元、HRog賃金Nowの募集賃金指数が低下し、毎月勤労統計調査との乖離が発生している。職種別に寄与度を分解し、低下の要因を探った結果、「04_運輸/物流/配送/警備/作業/調査」と「11_販売/接客/サービス」の寄与度の低下が主な要因であることがわかった。このように、最近の募集賃金指数前年比の伸び率縮小は、これまで上昇をけん引してきた職種の伸び率の低下が背景にあり、その要因については職種ごとに区々となっている。引き続き求人需要は全体で見れば強い状態が続いていることにも留意が必要である。
〇付録
【図5】職種別ウェイト(正社員、月収)
【図6】職種別募集賃金指数(正社員、月収、前年比)
1HRog賃金Nowでは、職種ごとの前年比は公表しているが、職種の求人数をもとにしたウェイトは公表していない。なお、HRog賃金Now では職種のウエイトは職種ごとの求人数を用いており、各職種の実際の就業者数とは異なる。就業者数をウエイトに使っている毎月勤労統計とは重み付けの仕方が異なることに注意されたい。