2024.06.19
レポート

「HRog賃金Now」と公的統計の比較分析

株式会社ナウキャスト Economic Research Unit

平川 海星 余野 京登


【概要】

  • HRog賃金Nowは募集賃金指数と求人数指数の種類に分かれ、正社員とパート・アルバイトの雇用形態ごとに複数の賃金種類(正社員は月給、年収、月給+年収1、パート・アルバイトは時給)が存在する。
  • 正社員の募集賃金指数は、2017年1月から2023月12月までの期間で毎月勤労統計調査よりも高い水準で推移し、特にコロナ禍以降は月給と月給+年収の系列が大きく上昇した。2021年10月以降において、月給の相関係数は0.94、RMSEは0.48であった。パート・アルバイトの募集賃金指数は、毎月勤労統計調査と同様に上昇を示し、2021年10月以降において、相関係数は0.93、RMSEは0.94であった。
  • 正社員の求人数指数は、有効求人数よりも高く推移し、特に年収の系列は2022年以降大きく乖離している。2021年10月以降において、月給+年収の相関係数は0.75、RMSEは8.64であった。パート・アルバイトの求人数指数も有効求人数を上回り、2021年10月以降において、相関係数は0.70、RMSEは31.69であった。差異の背景には、求職者がハローワークから民間の求人サイトへ移行していることがあると考えられる。


【詳細】
〇本分析の目的
 公的統計は結果の公表が1〜2カ月後と速報性に欠け、速報性の高いHRog賃金Nowの募集賃金指数はその先行指標として用いることができると考えられる。有効求人数についても、公的統計はハローワークの求人数をもとに算出することから、年々増加するインターネットの求人広告を反映できておらず、トレンドを捉え切れていない。足元ではベースアップ要求の増加・春闘などでの賃上げ要求も踏まえ、多くの企業が段階的な賃上げ目標を発表しており、速報性の高いデータが重要となっている。
 本分析では、HRog賃金Nowと関連する公的統計との水準値2の時系列比較を行い、HRog賃金Nowの特徴について考察を行った。
 HRog賃金Nowは募集賃金指数と求人数指数の種類に分かれ、正社員とパート・アルバイトの雇用形態ごとに複数の賃金種類(正社員は月給、年収、月給+年収、パート・アルバイトは時給)が存在する(表1を参照)。本分析では、以下の指数種類×雇用形態×賃金指数の各系列と対応する公的統計の比較を行った。

【表1 HRog賃金Nowの系列】


各系列に対して、比較を行う公的統計は以下の通りである。

【表2 比較対象(公的統計)】


〇募集賃金指数(正社員)
   図1では、毎月勤労統計調査とHRog賃金Nowの募集賃金指数(正社員)の月給、年収、月給+年収の3系列の水準値の推移の比較を行った。
 2017年1月から足元までの全期間で見た場合(図1・左)、HRog賃金Nowの方が毎月勤労統計調査よりも、高い水準で推移している。特に、HRog賃金Nowの月給と月給+年収の系列は、コロナに大きく上昇し、毎月勤労統計調査と乖離が生じ始めている。これは、コロナ禍において、募集賃金の低い飲食関連の求人が取り下げられ、相対的に高い求人が残ったことによる影響だと考えられる3。一方で、HRog賃金Nowの年収の系列に関しては、コロナ後の2020年頃に大きく上昇している。
 2021年10月の値を100とし、2021年10月から足元の推移を見た場合(図1・右)、月給、月給+年収水準値の推移は毎月勤労統計調査と非常にアラインしているが、年収については、賞与を含んでいる影響により毎月勤労統計調査との乖離が発生していると考えられる。

図1 募集賃金指数(正社員)と毎月勤労統計調査の比較(左:2017/1~2023/12、右:2021/10~2023/12


〇募集賃金指数(パート・アルバイト)
  図2では、毎月勤労統計調査とHRog賃金Nowの募集賃金指数(パート・アルバイト)の時給の水準値の推移の比較を行った。毎月勤労統計調査の所定内給与を所定内労働時間で割った値を使用しており、時給と対応させている。2017年1月から足元までの全期間で見た場合(図2・左)、毎勤の所定内給与は季節ごとに変動はあるものの、募集賃金が上昇するとともに緩やかに上昇していることが分かる。 2017年1月からの相関(図2・左)は0.95とかなり強い。コロナ付近での乖離は見られるものの、それ以外の期間では毎月勤労統計をトラッキングできているといえる。また、2021年10月の値を100とし、2021年10月から足元の推移を見た場合(図2・右)においても、RMSEが0.94、相関が0.93と誤差が非常に小さいことが分かる。

図2  募集賃金指数(パート・アルバイト)と毎月勤労統計調査の比較(左:2017/1~2023/12、右:2021/10~2023/12)】


〇求人数指数(正社員)
 図3では、有効求人数とHRog賃金Nowの求人数指数(正社員)の月給、年収、月給+年収の3系列の水準値の推移の比較を行った。2017年1月から足元までの全期間で見た場合(図3・左)、HRog賃金Nowの月給、月給+年収の系列は有効求人数よりやや高く推移している。一方で年収の系列については、常に高く水準している。有効求人数に対して、HRog賃金Nowが高く推移している理由として、求職者がハローワークから民間の求人サイトへ移行していることが背景にあると考えられる4
 2021年10月の値を100とし、2021年10月から足元の推移を見た場合(図3・右)、年収の系列については、2022年以降大きく乖離していることがわかる。年収が月給に比べて高く推移している理由として、転職者数の増加があげられる。転職に関する求人は月給より年収による広告が多く、年収の系列は転職関連の求人数をより強く反映しているといえる5


図3 求人数指数(正社員)と有効求人数(一般)との比較(左:2017/1~2023/12、右:2021/10~2023/12)


〇求人数指数(パート・アルバイト)
 図4では、有効求人数とHRog賃金Nowの求人数指数(パート・アルバイト)の時給の水準値の推移の比較を行った。2017年1月から足元までの全期間で見た場合(図4・左)、求人数指数(パート・アルバイト)と有効求人数(パート)の系列と同様に求人数指数が有効求人数を上回って水準しており、2020年以降は求人数指数が跳ね上がり乖離が大きくなっている。2020年前半のコロナによる1回目の緊急事態宣言で双方で大きくマイナスしている。2021年10月の値を100とし、2021年10月から足元のの推移を見た場合(図4・右)においても、求人数指数が有効求人数を上回っているが、全期間では0.22だった相関が2021年10月以降においては、0.70と相関が強まっていることがわかる。

図4 求人数指数(パート・アルバイト)と有効求人数(パート)との比較(左:2017/1~2023/12、右:2021/10~2023/12)


〇まとめ
 表3では、毎月勤労統計調査と募集賃金指数の誤差をまとめた。全期間を通して、相関係数は0.8以上あり、特に2021年10月以降においては、ほとんどの場合において相関係数が増加しており、コロナ後に賃金上昇をうまくトラッキング出来ていることがわかる。2021年10月以降のRMSEに関しては、正社員の月給+年収が一番低く、募集賃金の上昇と実際の支払賃金が連動して、上昇しているといえる。

表3 毎月勤労統計調査と募集賃金指数の誤差


 表4では、職業安定業務統計と求人数指数の誤差をまとめた。全期間を通して、相関係数は低い結果であったが、2021年10月以降においては、相関係数が増加している。正社員の3系列のうち、求人全体をカバーしている月給+年収の系列が最も高く、相関係数は0.75であった。RMSEに関しては、募集賃金指数の場合と比較して、誤差が大きく、これは前述の通り、求職者がハローワークから民間の求人サイトへ移行していることが背景にあると考えられる。

表4 職業安定業務統計と求人数指数の誤差


【注釈】
1「月給+年収」、月給ベースの求人と年収ベースの求人の両方を対象として指数を計算している
2 初期時点の値を100としたときの時系列推移
3 求人広告情報を用いた正社員労働市場の分析(日本銀行ワーキングペーパー)によると、「感染症流行直後の局面では、「退出効果」の大幅拡大が募集賃金を押し上げている。これは、感染症 拡大や公衆衛生上の措置を受けて、募集賃金の水準が相対的に低い対面型サー ビス業などの求人掲載が取りやめられ、残された求人の平均募集賃金が計算上 押し上げられたことによるものと考えられる。」
4 近年ハローワークの利用者数は、新規求職者数に関しては、2012年度には約660万人だった人数が、2022年度で約450万人と年々減少傾向である。また、厚生労働省の雇用動向調査からも求職活動におけるインターネット利用割合は33%だった2008年に比べて2018年では56%に上昇し、民間の求人広告会社のサイトの利用が増えていることが分かる。
5 転職者数は2019年より増加を続けており、2023年12月の総務省統計局労働⼒⼈⼝統計室の調査によると、就業者のうち転職者は325万⼈と1年前に⽐べ12万⼈増加(6期連続)。




Appendix
 Appendixでは、HRog賃金Nowと関連する民間統計との比較を行った結果について、まとめる。比較を行う民間統計については、以下の通りである。

表5 比較対象(民間統計)


〇募集賃金指数(パート・アルバイト)
 図5では、株式会社リクルートの調査研究機関JBRC(ジョブズリサーチセンター)が公表しているアルバイト・パート募集時平均時給調査とHRog賃金Nowの募集賃金指数(パート・時給)を比較する。図6-1からアルバイト・パート募集時平均時給調査の方が高めで推移し、2020年から2022年末まで乖離が見られるが、いずれも上昇傾向である。また、2021年10月年以降のみを抽出し2020年1月の値を100とした場合をみると、水準値はほぼ一致していることが分かる。
 さらに下の図は、募集賃金指数の時給とアルバイト・パート募集時平均時給調査を実数で見たものである。アルバイト・パート募集時平均時給調査は三大都市圏の調査結果のため、全国をカバーしている募集賃金指数より高く推移している。

図5 パート・募集賃金指数 vs パート募集時平均時給調査(左:2019/1~2023/12、右:2021/10~2023/12)



〇求人数指数(正社員)
 図6では、全国求人情報協会の求人広告掲載件数等集計結果とHRog賃金Nowの求人数指数(正社員)を比較する。HRog賃金Nowの3系列に比べてコロナによる2020年上旬の沈み込みが大きく、現在にかけて徐々に水準を回復している。

図6 正社員・求人数指数vs求人協会(左:2019/1~2023/12、右:2021/10~2023/12)


〇求人数指数(パート・アルバイト)
 次にパートの求人数指数と全国求人情報協会の求人広告掲載件数等集計結果を比較する。
 (図7-左)を見ると2019年までは乖離が大きく、広告求人協会が大きく水準したが、コロナ以降はほぼ同水準で増加していることが分かる。
 (図7-右)で、2021/10=100でみると、コロナの影響がなくなり相関も0.67から0.85まで上昇し、同水準で回復していることが分かる。

図7 パート・求人数指数vs求人広告掲載件数等集計結果(左:2018/1~2023/10、右:2021/10~2023/10)


〇まとめ
表11 民間統計に対する募集賃金指数の誤差

 
アルバイト・パート募集時平均時給調査とHRog賃金Nowの募集賃金指数(パート・時給)の相関・RMSEはどの期間においても強く、コロナ禍においても、ベンチマークとの乖離はなく推移している。

表12 民間統計に対する求人数指数の誤差


 求人広告掲載件数等集計結果(全国求人情報協会)をHRog賃金Nowの求人数指数(正社員)と比べると、相関は月給+年収の系列で最も強く、RMSEは月給の系列で最も小さく、精度が高い。HRog賃金Nowの求人数指数(パート)と比べると、コロナ前においては乖離はみられたものの、それ以外の期間においては同水準で推移している。

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